今も在り続ける7つの流れ、500の感覚が取り囲む「大竹伸朗展」
1988年以降は愛媛県宇和島市を制作拠点とし、絵画、版画、立体作品、建築物など、ジャンルを問わず膨大な数の作品を生み出してきた現代美術家・大竹伸朗さん。今回、東京国立近代美術館から「大竹伸朗展」のバトンを受け継ぎ、開館25周年を迎える愛媛県美術館で初の地元開催となります。9歳のときの作品から最新作に至るまでの作品約500点が7つのセクションに分かれて並ぶという本展。開幕に先駆け、大竹伸朗作品《宇和島駅》の設置で愛媛県美術館を訪れた、大竹伸朗さんご本人に編集部がお話を伺いました。
《宇和島駅》 1997年 各190×90×180cm
展覧会に先駆け、愛媛県美術館屋上に設置された《宇和島駅》。毎日17:00~20:00の間はネオンが灯り、展覧会最終日の7月2日まで飾られる。
●作家プロフィール
大竹伸朗(Shinro Ohtake)さん
1955年東京都生まれ。愛媛県宇和島市在住。主な個展に熊本市現代美術館 /水戸芸術館現代美術ギャラリー(2019)、パラソルユニット現代美術財団 (2014)、高松市美術館(2013)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(2013)、アートソ ンジェセンター (2012)、広島市現代美術館/福岡市美術館 (2007)、東京都 現代美術館 (2006) など。また国立国際美術館(2018)、ニュー・ミュージアム・ オブ・コンテンポラリー・アート(2016)、バービカン・センター(2016) などの企画 展に出展。ハワイ・トリエンナーレ(2022)、アジア・パシフィック・トリエンナーレ (2018)、横浜トリエンナーレ(2014)、ヴェネチア・ビエンナーレ(2013)、ドクメンタ (2012)、光州ビエンナーレ(2010)、瀬戸内国際芸術祭(2010、13、16、19、22) など多数の国際展に参加。また「アゲインスト・ネイチャー」(1989)、「キャビネッ ト・オブ・サインズ」(1991) など歴史的に重要な展覧会にも数多く参加。
▶作家公式サイト(https://www.ohtakeshinro.com)
●インタビュー
――今回愛媛県美術館で開催される「大竹伸朗展」。展示する作品500点は、今まで制作した中でのほんの一部だと聞いたのですが、中には依頼されて作るというのも結構あるのでしょうか?
内容によりますね。道後温泉本館の素屋根やオリンピック公式ポスターに関しては是非挑戦したいテーマでした。普段は、依頼も締め切りも基本的にはありません。展覧会に関しては、会期が決まるとそこに向けて動き出すけど、何もなくても似たようなものですね。
――過去の作品にはシリーズものがいくつかあると思います。これらは計画的に作られているのでしょうか?
計画のもとにシリーズ作品が始まることは、まずありませんね。テーマやモチーフの統一性を考えてから制作することも、ほぼありません。気の向くままに作る。自分にとっての統一性は、あくまでも結果的なものです。
――なるほど。ちなみに日々、自発的に作られているものと、「こういう話があるんですが作ってもらえませんか?」という依頼があったときって何か思うことに違いはありますか?
そうですね。まったく違います。依頼の場合は、そのテーマに興味があれば受けることもあるし、自分自身と接点を感じられないテーマであれば受けません。
――そのときどきの、状況や気持ちで決められているということでしょうか?
そういうわけではなく、そもそも依頼を受けて作ることは自分の仕事ではありません。
――大竹さんが執筆されてる「見えない音、聴こえない絵」の中で、宇和島市の緞帳の制作依頼を受けたという回の「赤松覗き岩遊園地」について書かれていた部分が印象的でした。それについて聞いてもいいですか?
この文章は2018年に京都で緞帳制作をしていたころのものですね。残念ながら数年前の災害で建物が壊れて、現在は更地状態です。以前その場所にあった休憩所で使っていたマッチ箱の柄が「パフィオうわじま」内の緞帳制作のきっかけになりました。80年代に宇和島に来たときからずっと昔の面影を残した状態だったけど、今は覗き岩と「竜宮城」と呼ばれる建造物以外なにもありません。
――同じような景色を見たいなと思って同じ場所に行っても、行った先は更地ということですね。
その通りです。愛媛展では覗き岩緞帳作品と道後温泉本館の素屋根作品「熱景」の原画や模型も特別展示します。
――愛媛の地元っぽさのある内容も入っているのですね。今回の「大竹伸朗展」は、あえて時系列順に並べるのではなく、また違った視点から切り取って集めて展示されると思うのですが、展示形式についても大竹さんのアイデアの部分が大きいのでしょうか?
まずは自分自身が展覧会の内容をどうしたいのかを美術館にお伝えしました。それをタタキ台に、定期的に話し合いを重ねながら、関係者みんなで詰めていったという感じですかね。2006年の「全景展」(東京都現代美術館)で時系列構成の大ががりな展覧会を経験したので、それを踏まえ、約3年間をかけて7つのテーマに絞り込んでいきました。テーマというと堅苦しくとらえがちですか、この60年あまり自分自身の中で途絶えることなくずっと続いてきた「流れ」を今回7つのテーマとしています。
――鑑賞する順番や流れについては何かありますか?
展示の第一室は「自/他」というテーマで始まります。画家を目指し始めた初期段階に、自分自身が影響を受けた人物や出来事が作品モチーフとなっているものを取り上げました。最初期は9歳のときのコラージュから高校時代の油彩、高校卒業後に働いていた北海道の牧場での写真やスケッチなどです。およそ50年間ほどの間に制作した約500点ほどが流動的な構成で7つのテーマに分かれて並んでいます。
――7つのテーマがありますが、一番大竹さんにとって印象の強いテーマは何ですか?
この巡回展では最後の部屋「音」ですかね。初めての個展以前、20代に制作したレコード盤や当時(80年)ロンドンで現地のバンドのコンサートにパフォーマンスで参加した時の記録、また音をテーマにした作品や実際に音を発する作品などこれまで未発表だった「音作品」を多数展示しました。
――音が目に見えるような形になっている作品って珍しい気がします。
これまで美術館での絵画展で「音」を同等に扱う試みはなかったので、音部屋は初挑戦でした。
――なかなか簡単に想像がつきません。
言葉で説明しても伝わりにくいと思うので、「現代美術」といった堅苦しい思い込みを抜きにしてとりあえず会場に足を運んでいただき、自分の気に入る部分の写真を撮りまくって、何かを感じていただければ十分です。
――最近、社会問題と絡めるなどメッセージ性の強い「現代アート」が多いように感じています。こういった受け取り方をしたらいいみたいなものが…。
どんな理屈の作品でも受け取り方は千差万別、小難しく考えるより“感じる”ことが大事だと思います。少なくとも愛媛展は、考えないで感じていただきたいと思っています。
――それを聞くと、この質問そのものが愚問かもしれませんが、今回の展覧会、「こういった見かたをするといい」みたいなのはありますか?
東京展では、僕の作品を知らなかった映え写真目的の若い層が日を追うごとに増えていきました。「アートを解釈する」といった意識を捨てて、会場に身を置いて感じるままに写真を撮りまくってください。
――5月からの展覧会、ますます楽しみになりました! ありがとうございました。
ありがとうございました。
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<Information>
愛媛県美術館開館25周年記念
大竹伸朗展
期間:2023年5月3日(水・祝)〜2023年7月2日(日)
会場:愛媛県美術館
開館時間:9:40〜18:00 ※入場は17:30まで
休館日:月曜 ※6月5日(月)は開館、6月6日(火)は休館
主催:愛媛県美術館、東京国立近代美術館