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【INTERVIEW】映画『高野豆腐店の春』を手掛けた三原光尋監督にインタビュー

2023.8.18 えひめのあぷり編集部

8月18日(金)の映画『高野豆腐店の春』(たかのとうふてんのはる)公開を前に、本作で脚本・監督を務めた三原光尋(みはら・みつひろ)監督が来松。今回は、『高野豆腐店の春』に心揺さぶられた編集部・ひかりりが、三原監督にインタビュー。

三原光尋監督プロフィール

1964年京都生まれ。大阪芸術大学在学中より、8mm・16mmの自主制作をはじめる。ユーモア溢れるコメディ映画や、みずみずしい青春映画を発表。2005年には自ら脚本・監督を務めた『村の写真集』で第8回上海国際映画祭・最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(藤竜也)をW受賞。コメディから人と人との絆を丁寧に描く人間ドラマまでその作風は幅広い。

『高野豆腐店の春』あらすじ

尾道の風情ある下町。その一角に店を構える高野豆腐店。毎日、陽が昇る前にそっと明かりが灯り、愚直で職人気質な父・高野辰雄(藤⻯也)と、明るく気立てのいい娘・春(麻生久美子)の一日が今日も始まる。こだわりの大豆からおいしい豆腐を二人三脚で作る毎日。常連客や昔ながらの仲間たちとの和やかな時間。そんな変わらない日々を過ごす父と娘だったが、それぞれに新しい出会いが訪れる——。

映画『高野豆腐店の春』本予告(公式)

“豆腐のようにシンプルな映画”

今回は、編集部・ひかりりが用意した「映画の感想メモ&三原監督にききたいことリスト」をもとにインタビューを進行。愛媛滞在中は温泉やご当地グルメを満喫したそうで、「今日もこの勢いでいきます!」と笑顔の三原監督。和やかなムードでインタビューが始まった。

インタビュー場所:株式会社エフエム愛媛 本社

――よろしくお願いします! 早速ですが、『高野豆腐店の春』は、豆腐職人が主人公の物語ですね。三原監督は過去にも「職人」が主人公の映画を手掛けられていますが、今回豆腐職人を主人公にした理由や経緯をお伺いしたいです。

簡単に言うと、僕がお豆腐好きだからです。あとは、実際にお豆腐屋さんを見たことですかね。映画撮影の朝は早いのですが、駅に向かうために朝5時くらいに自転車で商店街を通っていると、お豆腐屋さんだけが灯りがついていたんです。「エネルギッシュな若い人がやっているのかな?」と思っていると、昔からやっているのであろう老夫婦が営んでいて。スーパーやコンビニでも気軽お豆腐が買える時代になっても、一丁200円くらいのお豆腐を、二人は人生をかけて作り続けている。それがとにかく「カッコイイなぁ」と思ったんです。そういう人たちの誇りを描きたいと思ったのが豆腐職人を主人公にしたいと思ったきっかけですね。

―― 一つひとつ工程を踏む、豆腐作りから始まる映画の冒頭シーンがとても印象に残りました。BGMも無く、豆腐作りの工程を一つひとつ丁寧に描いている数分間。このシーンの三原監督のこだわりは、どういったところにあるのでしょうか?

最初の5分は、狭い作業場で主人公たちが徹底的にお豆腐を作る姿を見せることにこだわりました。お豆腐作りをする空間では親子じゃなくて職人で、そこにはプロとしてお豆腐に向き合う“師匠と弟子”の関係性がある。ドキュメンタリーのようなあのオープニングシーンで、そういった多くのことを伝えたくて、力を入れて作りました。あのシーンは僕としての本作における勝負のはじまりでもあるんです。

――豆腐ってすごくシンプルな素材で作られているものだと思うのですが、この映画自体もとてもシンプルな構成や演出で、そこに出演者の方々や制作の方々の確かな力が詰まっているように思いました。

そうなんですよ。『高野豆腐店の春』は、映画自体もお豆腐みたいにシンプルな方法で作ったんです。レールを敷いて移動しながら撮るとか、ドローンを飛ばして上空から撮るとかはせず、「カメラは動かさない。カット割りだけ」。撮影については、とにかく「足していかない」ことを意識しました。

スタッフもキャストも精鋭揃いで、今回撮影したカメラマンも10年以上一緒にやっている人です。実はほとんどのカット割りは打ち合わせしないで進めているんですよ。もう僕の描きたいものがわかってくれているので。(主人公・辰雄を演じた)藤竜也さんもそうです。撮影現場では、それぞれの役者さんが考えてきてくれたアイデアをくみ取って一つのシーンを固めていくという形で進めたのですが、僕と役者さんが作ったお芝居を見てカメラマンがカット割りを提案してくれるんです。主役の二人がシナリオをちゃんと理解してくださっていたこともあり、撮っていてとても楽しかったです。「描くぞ!」という気持ちよりは、「役者さんたちの芝居の様子を撮影する」という気持ちが強かったですね。

――信頼関係のもとで、今回も撮影が進んでいったんですね。そういえば、辰雄の“悪友”を演じた役者さんたちの芝居も印象的でした。

キャスティングは、「この人にお願いしたい」というリクエストも交えつつさせていただきました。今回の“悪友”たちも含め、僕の映画の登場人物は善良なタイプが多く……あえてそうしようと思って脚本を書いているわけではないのですが、一生懸命生きているけれど不器用な人たちと、自分自身の監督人生を重ねている部分があるのかもしれませんね。ちなみに、ほとんどが各シーン一発勝負なんですよ。何回もリテイクすると、綺麗で整った芝居になってしまうので。


――尾道というロケーションについてもお伺いしたいです。物語の様々な場面で“尾道らしさ”を感じたのですが、今作の舞台を尾道に決めた背景を教えてください。

どこを舞台にするかは、いろんなエリアが撮影候補地として挙がった中で、プロデューサーさんと車で瀬戸内をまわりながら決めました。また、僕が尊敬する先代の監督たちが愛し、たくさん映画を撮ってきた尾道で、自分も映画を撮ってみたいという憧れもありましたね。あとは、角っこを曲がったところに本当に二人が営むお豆腐屋がありそうな気がしたというのもあります。シーンとしてはありませんが、悪友の一人ひとりにそれぞれの物語があって、それが全部作れるような場所が尾道だと思っています。

――さまざまな「春」がカギとなる作品だと思いますが、実際、撮影も春に行われたのでしょうか?


撮影は2年分の春をかけて行いました。その前の年から風景などをいろいろ撮ったりはしていたのですが、メインは2023年の春です。今年の春の撮影時、ちょうど一輪だけ桜の花が咲いていて、ありがたいことに藤さんもそれを踏まえてお芝居をしてくださって。あれは、僕のシナリオでは書けなかったものですね。アドリブとはまた違う、主演の藤さんがよく言っているのは「辰雄が言わしたんや」と。それを聞いたときは本当に嬉しかったです。

――この作品の構想(アイデア)が生まれたのはいつ頃なのでしょうか?

シナリオ自体はちょうどコロナが始まった頃です。緊急事態宣言の下、部屋にこもるしかなくて、結果的にそれが自分と向き合う時間になりました。そのときに、これが最後になってもいいと思いながら、藤さんへのラブレターとして、「こんな映画を作りたい」という一心でシナリオを書きました。

――コロナ禍を経て、作品づくりの点で変わったことはありますか?

 実はコロナが流行る前、「豆腐で一本作りたいな」の段階で考えていたのは、ほとんど1時間半セリフのない映画だったんです。僕は新藤兼人監督の『裸の島』という映画が大好きなのですが、その映画は1時間40分くらいの間、ほとんどセリフが無いんですよ。『裸の島』は、夫婦が尾道を舞台に、日々水を運んで田んぼを耕すというストーリーなのですが、僕も親子がセリフも無く1時間半くらいずっと豆腐を作り続けるような、そのくらい渋い内容で考えていました。しかし、コロナ禍を経て、「今自分がつくりたいのは何人かの映画ファンに向けてだけのものではなく、登場人物がおせっかいをしたりわいわい集まったりしながら縁を紡いでいくような物語だ」と思ったんです。人が集まって縁を紡いでいくことがどれだけ素敵なことなのか、コロナ禍で自分が感じたことをシナリオに託した感じですね。

――最後に、「えひめのあぷり」ユーザーにメッセージをお願いします!


『高野豆腐店の春』は、見終わった後、一緒に観た人といろんなことを話せる映画だと思っています。この映画には、派手なアクションシーンや奇想天外な展開はありません。お豆腐屋の父と娘、そして、その仲間たちの日常を描きました。ぜひ、親子やご家族、大切な人と観に行っていただけるとありがたいです。

©2023「高野豆腐店の春」製作委員会