「えぷり」とは?

キジに導かれて鬼の町へ。東京育ちの26歳が見つけた「好き」に囲まれた暮らし(愛媛/鬼北町)

2026.3.27 えひめのあぷり編集部

鬼北町でキジを育てる大村さん

鬼北町に、キジを育てている青年がいます。
26歳の大村怜さんは、東京都八王子市の出身。
農業の経験はゼロでした。

「偶然の出会いばかりなんです。」と、笑いながら話す大村さん。
どのような縁が山あいの土地、鬼北町に彼をつなぎとめたのでしょう。
現在大村さんは、キジの飼育や販売を中心に、ゆず栽培とキジの解体の仕事を組み合わせた生活を送っています。

キジの世界に飛び込んでから、今年で4年目。
「運が良かったなって、それだけです。」
そう言いながらも、その顔はいきいきとしていました。

キジ農家って、どんなことをしている?

キジと聞いてピンとくる人は少ないかもしれません。
大村さんも「食べられることだって知らなかったし、肉として売られてるなんて、東京の頃は全然知らなかったんです。」と話します。
キジは春に産卵し、ヒナを育てて、秋から冬にかけて出荷する年間サイクルで動きます。

一気に孵化させて、育てて、出荷する…。
そのサイクルは、ニワトリよりも野菜やお米のように、季節の移り変わりに沿った農業に近いのだそう。

昨年の飼育頭数は2,600羽。今年は3,000羽の飼育を目指しています。
基本的に一人でこなし、忙しい産卵期だけ手伝ってもらいます。

出荷先は地元だけではありません。
東京や大阪などの都市部が、主な販売先です。
キジ料理を出す店はまだ少なく、その希少性がむしろ強みになっています。

キジがつないだ鬼北町への移住

大村さんが就職活動をしたのは、ちょうどコロナ禍の真っ最中でした。
将来を考える時間が増えるなかで、大村さんは違和感を感じていたといいます。

もともとあったのは、自然や生き物に関わる仕事がしたいという気持ち。
都市で働くイメージがどうしても持てず、地方でのインターンを探し始めました。

高知県四万十町の「いなかパイプ」という団体を見つけ、1か月の田舎暮らしを体験。
廃校を改装したドミトリーでの生活は、新鮮なものだったといいます。

「どうせなら、いろんな場所を見てみよう!」と足を伸ばした先が鬼北町でした。
道の駅で2週間ほど働くことになります。
そこで初めて知ったのが、キジの養殖。

「生き物が好きなこと、養殖が珍しいという気持ちが重なって。
キジを飼うのがおもしろそうだなって思ったんです。」

移住先を考えながらも「ここだ」と決めきれる何かは見つかっていなかったそう。
「でもキジが、ラインを越えてきたんです。」
条件が揃ったというよりも、気持ちのほうが先に動いた感覚だったのかもしれません。
キジとの出会いが、鬼北町に移住する決め手になりました。

協力隊の3年間で、ゼロから学んだこと

鬼北町に来た当初、キジについての知識はほぼゼロ。
地域おこし協力隊として着任し、長年キジの飼育をしてきた藤代さんのもとで、飼い方をゼロから教わりました。

協力隊として生活が保障される3年間に、生活基盤を確保しながらノウハウを積み重ねていきました。
「最初はわからないことばかりで覚えるのが大変でしたが、とてもいい環境でキジの飼育を学ぶことができたなと思っています。」
振り返ると、理想的な入り口だったと大村さんは話します。

任期終了と同時に就農し、開業。
「協力隊を卒業してから一番変わった、経営のところかもしれません。」
地域おこし協力隊の卒業後に大きく変化したのは、経営と数字に自分で向き合わなければならなくなったことでした。

朝5時から始まる?キジとの暮らし

産卵期の朝は早く、5時に起きることも珍しくありません。

まずヒナのえさやりを済ませ、親鳥の小屋へ卵を拾いに行きます。
泥がついていれば拭いて、保管庫へ。

その後は施設の清掃や消毒、大きくなったヒナを広い小屋へ移す準備など、日によって作業は変わります。
夕方にもう一度卵を拾いに行き、えさをやって一日が終わります。

忙しい時期は、そんな日々が続くそう。
キジは出荷までに180〜200日かかり、鶏の約3倍のコストがかかります。
季節によって労働量が大きく変わるのも、キジ農家ならでは。

キジの卵は、1羽のメスが1シーズンに産むのが20個ほどで、とても貴重です。
そのため、キジの卵は流通しておらず、ヒビの入った卵は地元のレストランに卸して活用してもらっているのだそう。
春限定で提供されるキジの卵を使ったプリンは、人気のメニューになっているといいます。

キジを本当に可愛いと思えるようになった

キジと関わり始めて4年。
「最近、とくに可愛くなってきました。」
そう話す大村さんの表情は、どこか嬉しそうでした。

地域おこし協力隊のときからキジと向き合ってきましたが、当時は「大変」の比重が大きかったといいます。
作業の全体像が見えていない分、愛でる感覚が生まれる余裕がありませんでした。

開業して1年が経ち、キジ飼育の全体像がつかめてきました。
自分のお金でキジを買うようになり、責任感とともに愛着も育ってきたのだそう。
その分、出荷のときにまったく心が痛まないわけではありません。

大村さんはその心の痛みも受け入れながら、キジと関わり続けることを選んでいます。
「何かの命をいただいて自分たちは生きている。そう考える機会をキジが与えてくれる。学ばせてもらっていると感じています。」
うまく言葉にするのは難しいと言いながらも、その気持ちはまっすぐ響いてきました。

南予なのに、めちゃくちゃ寒い…

鬼北町に来て、想定外だったことが二つありました。
一つは、寒さです。
愛媛県南予というイメージから温暖な気候を想像していましたが、鬼北町の冬は甘くありませんでした。

最初は、鬼北のなかでも雪が積もる日吉地区に住んでいました。
引っ越した先の愛治地区も雪が積もる地域だったそう。
「これで寒さから逃げられたと思ったら、全然そんなことなかったんですよ。」

大学生のころにインターンで訪れたのが6月だったため、冬の寒さは体験していませんでした。
想像以上の寒さというギャップがあった、と笑います。

もう一つは、キジの利益率の問題。
「端的にいえば、キジだけで生活するのは厳しいんですよね。」と大村さんは話します。
飼料代の高騰が続くなか、経営をどう成り立たせるかは現在進行形の課題だそう。

それ以外のギャップは、ほとんどなかったといいます。
八王子に住んでいたころに新宿まで電車で1時間かかっていたのが、鬼北町から松山まで高速で1時間。
体感として、そこまで大きく変わらないのだそう。
何よりも、毎日の電車通勤がないことのほうが重要だったといいます。

自宅からの景色が一番好き

高台に建つ一軒家からの田んぼが見渡せる景色が、大村さんのお気に入りです。
5月になると苗が育ち、一面の黄緑が広がります。
秋には黄金色に変わり、冬には雪景色に。

「移住ならではかもしれないですよね。ここの景色が好きだと感じて今の家を選んだので。」
もともとその土地に住んでいると、当たり前になって気づかなくなります。
別の場所から来た人間だからこそ、その景色の価値がわかると語ってくれました。

釣りも、移住して来てから本格的に始めた趣味です。
祖父に釣りを教わった記憶はあったものの、都内ではなかなか釣りに出かける機会がありませんでした。

鬼北町からなら、海まで30分ほどで行けます。
リアス式海岸が広がる南予では、ブリやハマチなどの高級魚が陸から釣れることもあるのだそう。

「東京の人からしたら考えられないような豊かさ。自分の好きを再発見できた場所でもあります。」
キジに囲まれた仕事と、海での釣り。
鬼北町での暮らしは、大村さんの「好き」をいくつも連れてきてくれました。

人の距離が近いのが好きだと移住して気づいた

東京では、隣の家の人と挨拶をすることがほとんどなかったそう。
それが東京なりの優しさなのだと、今では思えるようになりましたが、当時からその距離感に違和感がありました。

鬼北町に来てからは、声をかけてもらったり、何かをもらったりする機会が多くあります。
「実際に来てみて、人との距離が近いのが好きなんだって気づいたんです。」
ここに定住しようと思ったのは、そういう人の温かさに触れたからだといいます。

とくに、キジの飼育を教えてくれた藤代さんの存在が大きかったのだそう。
「人の温かさに触れて、自分も何かできることをして、地域に恩返ししたいなって。それがここに残りたいという気持ちにつながりました。」

集落の先行きへの危機感も背景にあります。
みんなで守っていこうとする姿勢を感じるから、自分も役に立ちたい。
そう話す大村さんの言葉から、この町の人のあたたかさが伝わってきました。

協力隊が終わってから、地域おこしが始まる

「協力隊の任期が終わってから地域おこしをするタイプの人間かもしれない。」と大村さんは話します。
地域おこし協力隊としての3年間は、地域おこしのための基盤をつくる時間。地域の活動に参加し、人と縁を結び、キジ農家としてのノウハウを積みました。

個人事業主になってからの今のほうが、鬼北町への関わりが深まった感覚があるといいます。
「働き方はいろいろあります。自分が子どもの頃に感じた「これが好き」という気持ちを、たまに思い出してみてほしいです。」

今の暮らしに息苦しさを感じているなら、本当の居場所は別のところなのかもしれません。

「こういう生き方もあるんだと知って、幸せになれる人が一人でも増えてくれたら嬉しいです。」
大村さんは今日もキジ小屋へ向かいます。

■『鬼北町地域おこし協力隊』
【お問合せ先】鬼北町役場企画振興課
【住所】愛媛県北宇和郡鬼北町大字近永800番地1
【電話番号】0895-45-1111

公式HPはこちら

えひめのあぷり編集部

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