3年の手間暇をかけて、じっくり育つ特産品
愛媛県松山市街地から、車で約50分!
砥部町広田に入ると「自然薯」と書かれた看板が目に入りはじめます。
そのとおり、砥部町広田は自然薯の栽培が盛んです。
毎年11月中旬になると、広田の自然薯を求めるリピーターが道の駅ひろた峡の館を訪れます。
今年は11月10日から、道の駅ひろた 峡の館で自然薯の販売が開始されました!
自然薯はそのまま食べるのはもちろん、実は料理やお菓子にも合わせやすく、使い勝手が良い食材です。
栄養価も高いので大人気。
そのため広田では、地域を元気にする特産品とし、栽培に力を入れています。
「自然薯で、広田の地域を活性化させたい」と意気込む、藤原さん。
「地域と自らの健康のためにも、自然薯を育てたい」と笑う上谷さん。
今回は、今年から栽培を始めた自然薯組合の期待の新人お二人を取材しました。
素材も栽培期間も、とにかく長い自然薯
お二人のお話に入る前に、自然薯についておさらいしましょう。
自然薯は、日本原産のものでスーパーでよく見かける安価な「ながいも」とは全くの別物。
ちなみに、中国原産の「ながいも」は大根のように太く、植え付けてからすぐに収穫ができるため、大量生産が可能です。
広田で育てている自然薯は、ムカゴから育てた種芋で作られています。
1年目は、春に植え付けた自然薯(ムカゴもしくは種芋)が育ち、秋にムカゴが収穫できます。
2年目の春に植え付けたムカゴが育ち、秋に種芋を収穫。
3年目の春に植え付けた種芋が育ち、秋に1mを越える自然薯が収穫できるのです。
今年、はじめて自然薯を育てることにした上谷さんは、「時間はかかるんだけど、自然薯の種であるムカゴから育てた方が、キレイに育つと聞いたからね。苦労が分かるから、来年の種芋用に一度ムカゴからも作ってみることにしたんだ」と笑顔。
ちなみに、上谷さんの言う「キレイに」とは、病気に強かったり、広田の気候にマッチした美味しい個体が出来たり…ということだそう。
また、上谷さんはススキを刈って畑の隅で醸し、苗の蒸散を防ぐための保湿材にしたり、自然薯畑の支柱を自ら山で切り出した木や竹を使ったりするなど自然のものを活かしながら栽培されていました。
太くて美味しい自然薯が安定的に収穫できるようになるまでは、とにかく手間も時間もかかるのです。
自然薯への期待@上谷さんの場合
この上谷さんの自然薯畑は、実は別の方の土地をお借りしているもの。
土地の持ち主が高齢化し、耕作放棄地になってしまったといいます。
「自分の家の前がこのままでは荒れてしまうし、それならば土地を借りて何かを育てようと思ったのです」と上谷さん。
そこで自然薯組合の上岡会長や地元の方に栽培方法を伝授してもらい、自然薯を育てることになったそう。
続けて同じ場所に植えると、育ちが悪いと言われる自然薯。
自然薯を育てるには、広大な土地が必要なのです。
「この近くには、まだ耕作放棄地がいくつかありますから。次はあそこを借りてやってみようかな」と道沿いの畑を指差す、上谷さん。
やっぱり道沿いの畑がおどろがんすなのはいかん、と呟いていました。
ちなみに、おどろがんすとは伊予山間部の方言で「荒れた(土地)」という意味です。
自然薯への期待@藤原さんの場合
元は田んぼだったという、祖父の耕作放棄地を借りて自然薯を育て始めた藤原さん。
自然薯を育てるまでは、東京の制作会社でディレクターをしていました。
地元の広田に帰省した際に、名物である自然薯の作り手が1/3程に減っていることを知り、愕然とします。
「自然薯の産地は、他ではあまり見ない。」
「広田のシンボルとして、他と差別化できる地域資源になるのでは?」
一度東京に出たことで、外からの視点を身に着けた藤原さんは、自分でも育ててみることを決心したそうです。
コロナ禍の中、リモートワークばかりで家から一歩も出られず、辛い思いをしていた藤原さん。
愛媛に帰郷して自然薯を作るという計画を立て、4月に愛媛に戻り、5月からは栽培を開始しました。
とはいっても、農業のことは何も知らない素人だった藤原さん。
「お手伝いするので、教えてください!」と広田の自然薯収穫高トップを誇る、公文さんを訊ねました。
ちなみに公文さんは、以前イマナニでご紹介した『自然薯粉(パウダー)』の生産者さんです。
▶「『酒蔵カフェ はつゆき』で広田のじねんじょブラマンジェ&プリン!」の特集を見る
「赤土を入れることや、波板を入れる角度など、事細かに教えてもらいました」と嬉しそうに語る、藤原さん。
一作り手になったことで、公文さんをはじめとした地域の方と話すきっかけが出来たそう。
藤原さんと公文さんのやり取りを見ていると、20代の若者が農業に興味を持つことが地域の活性化にも繋がり、みんなが元気になっている…そんな様子が見てとれました。
上谷さん!自然薯はうまく出来た?
夏から自然薯の栽培を追いかけていた取材班は、この秋、収穫現場へやってきました。
「うん、出来とるよ!」と上谷さんが、地面を掘って見せてくれます。
土をなでながら、自分の子どもを見ているような優しい目で自然薯を見つめる上谷さん。
出来はどうですか?と上谷さんに訊ねたところ「概ね、想像通りに進んどるかな。農業は、良い脳トレになるよ。健康に良い!」と笑っていました。
農家の逸品「ほくほく!ムカゴ飯」
「来年も、むかごから作ってみようと思うんです」と、上谷さんが立派なむかごを見せてくれました。
残ったむかごは、収穫して道の駅ひろたに卸したり、お仲間におすそ分けしたりするそう。
「塩ゆでにしたり、ムカゴ飯にすると美味しいよ!」とのことなので、いただいたむかごで作ってみました。
■ ムカゴ飯(4人分)
・ムカゴ1カップ
・米3カップ
・酒50cc
・塩小さじ1
① ムカゴをよく洗い、水から茹でる。
② 米を研いで水加減をし、ムカゴと調味料を加えて30分置く。
③ 普通にご飯を炊き、炊き上がったらよく混ぜる。
ホクホクとしたムカゴは、歯で潰すと自然薯らしさを感じられます。
塩味が効いていて、美味!なんだか懐かしい味です。
藤原さん!自然薯はうまく出来た?
藤原さんの自然薯は、どうでしょうか?
公文師匠の立ち合いのもと、自然薯の収穫が始まりました。
公文師匠に鍬で土を落とすところから教わり、藤原さんもそれに倣って掘り出します。
農家の逸品「自然薯つみれのすまし汁」
「自然薯って、すまし汁に落とすと団子になるんよ。これが美味い!」と公文さん。
さっそく奥さんの公文伊都子さんにレシピをお伺いして再現してみました。
■ 自然薯つみれのすまし汁
・自然薯
・白菜
・春菊
・ネギ
・白だし
① 鍋に白だし1に対し、水6を入れ、沸騰させる。
② ①に適当なサイズに切った野菜を入れて煮込む。
③ 自然薯をすりおろし、沸騰している②に投入する。
もっちもちの食感がおもしろい自然薯つみれと、優しい味のすまし汁が絶妙にマッチしていて、いくらでも食べられる美味しさでした!
今回は包丁の背で自然薯の皮をそぎ落としましたが、そのまますりおろしてもOK。
その場合は皮の色が入り、やや見た目が黒っぽくなりますが栄養価は高いです。
自然薯はお箸で少量すくい、スプーンの上に一度落とし、そこから丸めつつ鍋に落とすと綺麗な形に作りやすいですよ。
手軽に自然薯を味わうなら『こぶしの家』で!
以前、イマナニの記事で大人気だった、農村食堂 こぶしの家の自然薯そばが今年も解禁されました!
▶「冬の定番!こぶしの家でのランチ後は、陶芸と仙波渓谷の紅葉で決まり!」の特集を見る
すでに好調な売り出しで、お客さんの3人に1人は、この時期しか食べられない自然薯そば(850円)を注文されていくのだとか!
また、この時期限定のおでん(90円)も人気です。
ピリリと辛い、からし味噌で召し上がれ!
■ こぶしの家
住所/愛媛県伊予郡砥部町総津159番地1
電話番号/089-969-2156
営業時間/10時~17時
休館日/火曜日、12月28日から1月3日
引き継がれ続ける、自然薯
権現山に続く道の、目の前に畑を構えている藤原さん。
「権現さまが見守ってくれていますから、悪いことは出来ません」とはにかみます。
これからも地元の誇る自然薯を栽培し、自然薯の収穫体験や、カフェでの特別なメニュー開発に販売、イベントなど、藤原さんの夢は絶えません。
「県道沿いやけん、見た目の美しさも考えんとね」と上谷さん。
まだ、点々と残っている耕作放棄地。
上谷さんに続いて、耕作放棄地を美しい自然薯畑に切り替えてくれる若い力を必要としています。
広田に移住して、自然薯を育てながらスローライフなんて、そんな生活も楽しいかもしれませんね。
基本情報
ジャンル
道の駅 数量限定