愛媛県では、下記3つの観点から、デジタル・ソリューションと関連技術(AI,IoT,ロボティクスetc...)を愛媛県内事業者・自治体等に実装し、地域課題の解決にチャレンジする「デジタル実装加速化プロジェクト」を2022年度スタートしました。
2023年度採択事業者のプロジェクトの成果報告をご紹介します。
近年、地球温暖化により台風が大型化しているといわれている。その結果、台風が原因と考えられる集中豪雨によって斜面が不安定化し、崩壊する斜面災害が後を絶たない。この斜面災害から人命・資産を守るため、「LPWAを用いた斜面災害監視システム」の実装化プロジェクトが昨年より始動している。
愛媛県内の土砂災害危険箇所の現状
現在、愛媛県内には約15,000箇所もの土砂災害危険箇所等が存在する。しかし、その危険斜面のほとんどには、監視センサが設置されず放置されているのが現状だ。放置されている理由としては、土砂災害危険箇所が多すぎることに加え、現在、土砂災害危険箇所を監視する伸縮計センサは、手間と費用が大きくかかってしまうからだという。
「LPWAを用いた斜面災害監視システム」が実用化されるために必要な3つのステップ
この課題を解決するために愛媛大学・京都大学が昨年度から取り組んでいるのが、「LPWAを用いた斜面災害監視システム」の開発。LPWAとは低消費電力で長距離通信が可能な無線技術のことで、LPWAを使うことによって従来の技術よりも安価にさらに省人化で斜面を監視できるという。
昨年度は、宇和島市を中心に約80機のLPWAセンサを設置
現在、LPWAセンサを実用化するための課題は以下と考えられている。
LPWAセンサにおいて開発企業各社が商品化に注力するようになってから日が浅いため、「LPWAセンサの精度検証が不十分」。さらに、現段階では避難指示を発令する基準となる「警戒レベル管理基準値」が設定されていない。
また、様々なメーカーがLPWAセンサを開発する中で、実用化するためにはプラットフォーム上で各メーカーが取得したデータを確認することができるようになることも必要だと考えられる。
これらを元に、次の3本柱で昨年度より実装が行われている。
1センサの性能を正確に把握する
2性能を把握して警戒レベル管理基準値の設定
3標準プラットフォームの開発
いよいよR5年度の実装検証が始動!
■センサ性能の把握
<現場検証>
昨年度は、現場検証として宇和島市を中心に約80機のLPWAセンサを設置した。実際に梅雨や盛夏、台風の季節を経て、センサの動きに関しては各メーカーとも順調なことが証明されつつある。
昨年にセンサを設置した大洲市豆柳においては、取り付けたセンサの動きなどを確認し、愛媛県は地すべり対策をとる予定だという。
<室内検証>
また、室内検証としては、昨年の実装を経て傾斜センサ精度測定試験機(以下,試験機)の改良が必要だと明確になった。今年度は、0.001°の傾斜も高精度に測れるように試験機が改良された。順次、改良された試験機による室内検査も実施していく予定だ。
同時に2年目である本年度は、「温度特性試験」も実施する。これはセンサが気温によって影響を受けるため、温度とセンサの相関性を明確にするためのものだ。
このように、昨年に引き続き、LPWAセンサの現場試験・室内試験の実装検証を継続する。
<実物大試験>
本年度は、人工的に巨大な傾斜を作成し、そこに10社以上のセンサを設置する「実物大試験による性能評価」も実施予定だ。
■警戒レベル管理基準値の設定
今年度は、一般社団法人全国地質調査業協会連合会(全地連)や四国CX研究会との連携をさらに強固なものにしていき「警戒レベル基準値」についても具体的に進めていくという。すでに、分科会も立ち上がっており、「警戒レベル基準値」の具体的な数字まで議論が進んでいる。今年度中には仮案で、具体的な数値が提示される予定だ。
■標準プラットフォームの開発
「標準プラットフォーム」に関しても、昨年の案をブラッシュアップしている段階だ。システム開発を担当するのは、「三井住友海上」。使い方・見せ方などUXにこだわったシステムに改良中だという。すでに2社のデータはプラットフォーム上で確認できるところまで進んでおり、ゆくゆくは8社のデータを同時に見られるようになる予定だ。
今年度は、昨年仕込んでおいたあらゆるデータを回収することで、実装のブラッシュアップと同時にデータ自体の精度が上がる年となる。
宇和島市でシンポジウムを開催
シンポジウムでは様々な意見が交換された
令和5年11月7日に宇和島市で「デジタル防災!-先進的災害監視技術と住民参加型防災の取り組み-」と題したシンポジウムが開催された。シンポジウムの内容は、LPWA技術を利用した斜面災害監視システムの開発から実装実例や斜面計測システム、宇和島市の先駆的な防災対策や避難アプリを活用した地域住民による災害タイムラインの策定の取り組み事例の紹介が行われた。
さらにシンポジウムの最後には各専門家によるパネルディスカッションも実施。官民学が一体となって、取り組まねばならない災害対策について今一度、考える機会になった。
今年度の意気込み
■四国CX研究会会長 京都大学大学院工学研究科 安原英明教授
昨年度に引き続き継続的に斜面の監視を続けるとともに、今年度は、実物大の実験を実施予定で、きちんとデータを取ることにさらに注力していきます。さらに、来年度は国の予算も利用できるようにして、このシステムをさらに強固なものにしていきたいと思っています。
■四国CX研究会副会長 愛媛大学大学院理工学研究所 木下尚樹教授
現在も傾斜の実装は進んでいますが、さらに広く展開して、地域の防災に貢献していけるようにしていきたいです。
昨年度から続く「LPWAを用いた斜面災害監視システム」の実装検証。さらに、今年度は実物大の傾斜を用意し、詳しくデータを取得していくという。このシステムを実用できれば、低コスト、省人化を実現しながらも斜面災害から人的・物的資産を守ることができるようになる。LPWAを活用した斜面の監視の実用化に向け、今年度の実装はさらに加速していく。
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