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インバウンド客を愛媛に呼び込め!行動データ解析からより効果的な観光施策へ【TOPPAN株式会社|事業紹介・実装報告】

2024.5.2 えひめのあぷり編集部

愛媛県では、下記3つの観点から、デジタル・ソリューションと関連技術(AI,IoT,ロボティクスetc...)を愛媛県内事業者・自治体等に実装し、地域課題の解決にチャレンジする「デジタル実装加速化プロジェクト」を2022年度スタートしました。

2023年度採択事業者の事業内容と実装結果をご紹介します。

日本の観光産業において、インバウンド需要の拡大は積極的に推進していくべき重要な命題のひとつである。特に、訪日観光客の中でも圧倒的に人数が多く、富裕層による日本製品の大量購入が期待できる中国人観光客をいかに取り込めるかで、より効率的な外貨獲得に繋がることが期待される。
日本人を対象とした行動データ分析による観光動向分析を行ってきたTOPPANが、コスモスジャパンが解析する中国人観光客の行動データをもとに、全国の自治体に先駆けて愛媛県にて中国人観光客の行動データ解析によるインバウンド活性化に挑む。

効果的なインバウンド施策が求められている

新型コロナウイルスの世界的な流行により観光業界は大打撃を受けたものの、2023年のインバウンド需要は急速に回復しており、日本は訪れたい国の首位となっている※。
2024年1月現在では、中国の団体旅行がまだ解禁されておらず、中国人観光客の来訪はコロナ禍前の2割未満までしか回復していないが、これは本格回復前に受け入れ準備を進めることができるチャンスでもある。
現状、訪日観光客については観光庁の調査による消費動向などが主な情報源となっており、観光客の日常行動や地域特性までは把握できておらず、平均的な観光コンテンツを作らざるを得ない状況だ。しかし、実際に愛媛県に来訪した訪日観光客の生活パターンや趣味嗜好まで把握することで顧客像が明確になり、そして県内外の観光動線の実態を把握し、行動データ解析を行うことで、より効果的な観光施策を実施できると考えられる。

※DBJ・JTBFアジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2022年度版)より

行動データ解析のノウハウを有するTOPPAN

国内の印刷業界を牽引してきた「凸版印刷」は、2023年10月に「TOPPAN株式会社」と社名を変更した。現在TOPPANの手がける事業は、書籍等の印刷から商品開発やブランディング、デジタル変革支援まで行う「情報コミュニケーション事業」、商品パッケージや建装材を手がける「生活・産業事業」、電子部材の製造などを手がける「エレクトロニクス事業」の3分野に分かれている。従来の「印刷」の枠にとどまらず、多岐に渡ってきているのだ。
そのうちのひとつとして、2021年より展開してきた行動データ解析サービスがある。自治体向けの観光動向分析や流通・メーカー向けデジタルマーケティング支援などを数々実施してきており、日本人を対象とした行動データ分析のノウハウとナレッジを豊富に有している。
人が「いつ」「どこ」にいたのかという位置情報を集積すると、「どこからどこへ」移動したのかという人の流れが把握できる。収集した行動データを分析することで、特定のエリアや時間にどれだけ多くの人が滞留しているのか、それは時系列でどのように変化するのか、移動手段は飛行機なのか電車なのか、あるいはバスや自家用車などの自動車なのかといった判別など、実に様々なことが推測できるのだ。そして、分析の結果をもとに観光客のニーズに対応したマーケティング戦略を策定することで、より効果的な施策を行なっていける。この分野に関しては、TOPPANには一日の長がある。

第1回行動分析レポート共有会

2024年1月29日、自治体や観光地域づくり法人(DMO)を対象として愛媛県内における中国人観光客の動向調査結果の報告と分析結果の共有を行う第1回勉強会が開催された。
デバイスから取得した時間と位置情報のログから、「来日前、3か月以上中国国内で検知された」かつ「日本国内で合計30日以上検知できていない※」デバイス情報を持つ人を「中国人観光客」と定義。2023年8月1日から2024年1月8日の計測期間のうち、中国人観光客の定義に該当するデータは日本全国で349,655件、愛媛県内で1,692件が確認された。

愛媛に来県した中国人観光客

都道府県別に訪日数を見ると、愛媛県は47都道府県中37位と比較的少なかった。また、滞在日数も1泊が最も多く、約64%が2泊以内。他の都道府県と比べて、愛媛県は中国人観光客の旅行先としてあまり選ばれていないという傾向が見えてきた。しかしこれは、訪日観光客向けの観光コンテンツを整備したり効果的なプロモーションを展開したりすることで訪問者数を増やす伸びしろが十分にあるということだ。
また、愛媛県内の訪問都市を見てみると、やはり観光スポットが多くある松山市が圧倒的に人気だが、西条市・東温市・新居浜市のシグナル(位置情報)は工業地帯から多く出ていたという。これは労働者の可能性もあるが、労働のために日本に在住している人の家族や知人が遊びにきた可能性も考えられる。今後もこの傾向が一定数見られるようであれば、中国本土と併せて市内での旅マエ広告・プロモーションが機能する可能性がある。

※現在中国で発行されているビザの日数により設定

中国人観光客は愛媛県のどこを訪れている?

中国人観光客のシグナルが集中している場所(クラスター)を時間別にヒートマップ化したものを見ると、観光客と推定される中国人は松山市と今治市に集中していることがわかる。全体的に愛媛県内での回遊は活発でない傾向が見られるが、朝・夜のしまなみ海道出入口付近のクラスターが濃く、尾道から日帰りで来県している観光客が一定数存在する可能性がある。また、深夜に八幡浜港付近にてクラスターが発生しており、大分との深夜発着フェリーの利用が一定数存在する可能性があることも見てとれる。

また、松山市のヒートマップを見てみると、観光スポットである道後温泉・松山城のほか、大街道周辺を好んで訪れているようだ。また、中国人観光客は日本で車の運転ができないため、他国よりも交通アクセスが良好なスポットに集中する傾向が強いようだ。そのため、公共交通機関のみでなく、シャトルバスの運行や団体旅行の積極的な誘致などにより、広範囲に回遊促進できる伸び代があるとも考えられる。

中国人観光客はどこからどこへ?

各市町の訪問相関マップ

各市町の訪問相関マップを見てみると、やはり松山市が観光の中心となっていることが窺える。久万高原町への訪問はスキー目的と考えられるが、松山市・西条市・今治市への回遊も見られるため、ウィンタースポーツをフックとした冬の観光コースが構築できる可能性がある。伊方町・松前町・松野町・大洲市・砥部町・宇和島市は松山訪問の通過ルートとなっている可能性があり、立ち寄らせるためのコンテンツ作りが効果的なエリアの可能性も考えられる。

松山空港からの観光スポットへの回遊は松山市駅・JR松山駅に比べて少ない傾向があり、空路よりも陸路での来県のほうが多い、つまり鉄道の駅がメインの出入口となっている可能性が考えられる。

現地での聞き込み調査も実施
そのほか、観光スポットとは思われないがクラスターとなっている場所、シグナル数は多くないものの観光客が訪れている場所を「特異スポット」として抽出し、地元企業のKJコーポレーションの協力を得て付近の観光スポットや商業施設とともに現地調査を実施。
その結果、規模の大きめな商業施設でも多言語での案内が少ないことがわかった。国内対応のみならず国際的にも整備の優先度が高いキャッシュレス決済も、有名店にしかない傾向が。
一方、大洲市と内子町はインバウンド対応に積極的で、内子では視察したどの店舗でもキャッシュレス決済に対応していた。コンテンツや受け入れ体制は整っているため、現状では韓国人が一番多いとのことだが、中国向けのPRも効果的な可能性があると考えられる。
また、近年国内でも有名観光スポットとして知られてきている下灘駅は、小紅書(中国のSNS)でも写真が多く投稿されている。現地で聞いたところ中国人はそれほど来ていない印象とのことだったが、アジア圏の集客に期待できる可能性がある。

データ分析の結果報告と課題仮説の説明の後は、TOPPANと地元参加者双方向の質疑応答が行われた。

今後、春節期間の訪問状況など、さらに新たなデータを取得しさらに課題仮説をブラッシュアップし共有会やディスカッションを行うことで、インバウンド施策の立案へと繋げていく。

今回のプロジェクトへの思い

TOPPAN株式会社 大橋成一郎さん

今回の分析により、愛媛を訪れた中国人観光客の方々の観光動向を明らかにすることができました。特に来県前後の導線や県内の回遊状況などの実態が把握できたことは、大きな成果だと思っています。ここに仮説検証を加えていくことで、インバウンド拡大に向けた勝ち筋が見つけられたらベストだと思います。
本プロジェクトの特長は2つあります。1つ目は、解析によって得られたデータを鵜呑みにするのではなく、現地調査でたくさんの地域の方々にインタビューをし、裏付けと根拠を持ってレポートを作成していること。2つ目は、県内で観光に携わる方々にお越しいただき、ご意見をいただく場を設けていることです。
今日の会議では、レポートの共有だけでなく、私たちの考察に異なる視点や別の可能性があることをご指摘いただくこともできました。皆様のご意見をもとに、第2回に向けてさらに分析を深めて、来年度のアクションにつながる成果をまとめていきたいと考えています。

コスモスジャパン株式会社 野瀧真一さん

今回はあくまで中国人観光客にフォーカスした分析にはなっているのですが、現状、愛媛県は四国全体として見ても中国の方から旅行先として選ばれにくいというところが見受けられました。しかし今回、現地調査などで愛媛に来る機会が複数回あったのですが、いろいろな方に聞き込み調査をしていくなかで、愛媛県のいいところをたくさん知り、ここにぜひ中国人観光客を呼び込みたい!という思いを新たにしました。
観光客に来てもらうためには魅力的な観光プロダクト(商材)が不可欠ですが、既にあるものは効果的なプロモーションをかけ、整っていないところは開発したり整備したりと解決していかなければなりません。TOPPANさんはそのソリューションをお持ちなので、今後TOPPANさんや我々が複合的に来県促進へと伴走しながら導いていけたらと考えています。

KJコーポレーション 伊野いずみさん
行動データの解析と同時に実際にデータで得られたスポットを訪れ、現地の現状を視察・取材することにより、具体的な現状を把握することができました。実際の現地調査により、インバウンド対応への課題や事業者様のご意見も多く得られました。
今回の調査を活かし、観光客へのアプローチと受け入れ側の準備の両面で効果的な施策を導き出していかなければと考えています。愛媛県生まれ、愛媛県育ちの地元企業として、外国人観光客の増加を促進できるようTOPPANさんとともに進んでいきたいと思います。

勉強会の参加者の声

有限会社竹原石材 竹原潤さん

私たちは石材店なのですが、愛媛県が誇る大島石を有効に使えないか?ということでサウナストーンを開発し、テントでサウナを体験できる「シコクサウナ」を立ち上げました。川のそばにサウナテントを立て、熱した大島石に新宮茶をかけてロウリュウを堪能した後に、石鎚から流れる清流にダイブして整うというものですが、利用者の喜びの声を聞いているうちに、愛媛にはこんなにも素晴らしい大自然があるのだから、それをもっと多くの観光客に体験してほしいという思いが強くなりました。
私は海外へ旅行し、現地ならではのいろいろな体験をするのが好きなのですが、愛媛県で体験できるコンテンツの情報というのは、世界に向けてはあまり発信されていないように思います。もっと積極的に発信して効果的に訪日観光客を呼び込めれば…と考えているので、今回の共有会でのお話は大変興味深かったです。

行動データログの解析とそのデータ・現地調査を基にした分析により、訪日観光客の誘致や消費拡大に向けた仮の課題がいくつも見出された。これから定期的に勉強会を開催し、現地の自治体やDMOに伴走しながらのインバウンド活性化に向けた具体的な施策の立案サポートが行われる。TOPPANによる中国人観光客の行動データ解析は、コロナ禍で疲弊した観光業界を盛り立てる一助となることが大いに期待される。

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