愛媛県では、下記3つの観点から、デジタル・ソリューションと関連技術(AI,IoT,ロボティクスetc...)を愛媛県内事業者・自治体等に実装し、地域課題の解決にチャレンジする「デジタル実装加速化プロジェクト」を2022年度スタートしました。
継続事業者の事業成果をご紹介します。
松山市沖にあり船に乗って約15分で到着する興居島。この20年弱で人口が半減している興居島では、耕作放棄地の増加と鳥獣対策、高齢者の徘徊、空き家の増加による防犯や防災対策など、人口減少や高齢化による諸問題に直面している。株式会社ノトス(以下、ノトス)が2022年度から進めている「DXアイランド興居島事業」では、さまざまなデジタルソリューションを活用し、問題を解決することにより、興居島の安全性や利便性を向上させ、島の活性化と【DXアイランド興居島】の実現を目指している。
興居島が直面する問題
ノトスが2022年度から解決を目指す、興居島の現状と課題は以下のとおり。
●人口減少
2005年1月1777人⇨2022年1月1060人。(※住民基本台帳より)
●高齢化
65歳以上の割合は、2005年1月47%⇨2022年1月62%。(※住民基本台帳から算出した高齢化率(65歳以上)の割合)
●鳥獣被害
近年では、毎年イノシシ約100頭を狩猟。鳥獣被害は第一次産業の後継者不足の一因となっている。
●空き家増加
人口減少によって空き家が増加し、防犯や防災上の懸念が拡大。
●防災対策
海抜の低い場所が多く、南海トラフ大地震による津波や台風等による高潮の危険性が大きい。
さらに、フェリーの運行状況について、悪天候による運休などの情報は電話でフェリー会社に問い合わせるか、ホームページから確認する必要があり、島民がすぐに把握する手段がないのが現状だ。
今年度の取組みと成果
各種ソリューションを実装するために重要となる通信ネットワークは、広域Wi-FiとLPWAを活用。
鳥獣対策は猟友会、見守り対策は町内会と松山西警察署、 防災対策は自主防災組織、サイネージは地元フェリー会社と、地元住民と連携・協議しながら各種ソリューションを導入し、持続可能な運用モデルを構築、長期的な視野で安全・安心・便利な 島の暮らしを実現するための取り組みを実施した。
【鳥獣対策】イノシシ58頭を捕獲、年間985時間の見回り時間削減に成功!罠センサーの効果は絶大
罠を仕掛けている様子
今年度は、電信製ソリューションを実装(基地局3ヶ所、罠センサー60台)し 、昨年度のソリューションと比較し、勉強会を2回開催した。
昨年度は電波の関係で罠センサーが設置できなかったエリアがあったため、通信システムの環境を整える必要があった。その解決法として、今年度LPWAの規格の一つである「LoRa PRIVATE」を活用した基地局を設置。LoRa PRIVATEはLoRa WANと比較し10倍の出力を有し、3台の基地局で島内全域をカバー。罠センサーの数は2024年2月に時点で60台、利用者は9名に増加した。
LoRa PRIVATEによる基地局。太陽光で稼動
【成果】
罠センサーの活用によりイノシシ58頭を捕獲(2024年2月11日までの集計)。さらに狩猟に関する時間削減においても効果を発揮し、多い人で年間395時間、利用者全体で年間985時間もの削減に繋がった。さらに新規の猟友会入会希望者3名を獲得!コストにおいては、興居島猟友会では60台の罠センサーを設置、1台あたり1カ月数百円程度の負担で、ランニングコストを捻出予定。
【利用者の声】
・大幅な労力削減に繋がった
・ガソリン代の削減もできた
・労力削減により新たな狩猟者の確保にも期待ができる
罠センサーに関する勉強会を実施
【見守り対策】愛媛県松山西警察署と連携して見守りを強化!
今年度は興居島を管轄する愛媛県松山西警察署と「見守りカメラを活用した安全・安心なまちづくりの連携協定」を結んだ。もしもの事態が起きた場合に、警察が島内に設置された見守りカメラのクラウドデータをすぐに閲覧できることで、事態の早期解決へと繋げることを目指した。
また、ネットワークカメラ5台追加し島内全域をカバーした。
IDM化を進めたことにより、作業効率化し、各社昨年度比10%以上の作業時間が削減されたという報告もされている。
参加者の声
以下、参加者の声を一部抜粋して紹介する。
・今日参加してみて、DXを学びたいと思いました。社内のDX教育が進んでいませんが、さまざまな企業の取組を知ることができましたし、さらに連携ができる企業があれば、どんどん進化できる!と思いました。
・はじめは面倒だけれど、データをためることで数字がみえるので、課題を解決することができたというところが興味深かったです。まさに今システムを設計中で、手間がかかるのでこれで本当に課題が解決するのかどうか、終わりがないような気がして彷徨っている状態です。半分以上終わっているので、その後情報をうまく使って、課題解決に役立てたいです。
また弊社はお話に聞くような請求漏れや未払いがないので、社員の方にも感謝します。
・DXへのリテラシーを上げていただきたいクライアント様との参加でした。、トークセッションで、これからのエンジニアの人材戦略についてお話いただけたことで、良い学びの機会になったと思います。
・自分と同じような、課題を持っていることがわかりました。焦らず中期的に考え、世代交代するのを待つことも解決方法かなとおもいました。電子契約にあまり興味がなかったのですが、印紙がいらない??という部分を含めてとても関心度があがりました。
・「働きやすい職場環境づくり、人が集まる会社」に経理業務の効率化や、現場のDXは必須であると改めて感じました。ありがとうございました。
「トーク内容から刺激をもらった」「次にやるべきことが見つかった」等の声が多く、セミナーへの満足度の高さが感じられた。
【防災対策】雨量計の設置で正確な防災情報を発信
島内3ヶ所に雨量計を設置し、WEB&スマホアプリをリリース(ワークショップ2回開催)
防災ドローン2機導入し、島民パイロット5名を育成(講習2回開催)
平成30年7月に起きた西日本豪雨では島内90カ所以上でがけ崩れが起こり、柑橘農家の約半数が被災した。昨年も大きな土砂災害が発生。このように災害が発生した際に、被災状況を迅速に把握し島民の避難行動に結ぶ付ける必要がある。また、気候変動にともなうゲリラ豪雨など局所的な降雨への備えも必要である。そこで「RainTech㈱」の雨量計を導入し、正しい情報を発信することで島民の安全を守る。
島内3ヶ所に設置された雨量計
【実施内容】
2023年9月25日から島内の3箇所に雨量計を設置し観測を開始。その結果、雨量計による実測値と気象庁のアメダスによる解析値には最大3.9倍もの差異があった。雨季を中心に今後も実測を続けより正確な情報を観測し、住民の避難行動に結び付ける。
また測定している雨量を島民が個人で確認できるようにアプリも開発。雨量計導入とともに住民の防災意識を高めるためにアプリの説明会・体験会も実施した。
勉強会の様子
【防災対策】防災ドローンの島民パイロットの育成
一方で、消防や松山市の防災拠点がない興居島においては、避難情報をいち早く把握し内地と共有する必要がある。そこで、ドローン2機を導入し、有志の島民パイロットを5名育成。ドローン操縦と飛行のための事務手続きに関するレクチャーをした。
ドローン講習会の様子
【サイネージ】島民の貴重な移動手段であるフェリーの運行状況を発信!
コンソーシアムの一員である㈱ごごしまは、2台のサイネージを継続的に運行。
運行状況や島の情報を日々更新した。
2ヶ所の港に設置されたサイネージ
次年度は持続可能な離島モデル確立を目指す!
次年度は、住民主体の運用と既存ソリューションの有効活用で持続可能な離島モデル確立を目指していく。
過去2年で整備した各種ソリューションを最大限に活用し、ソリューション間の連携を図り、事業効果を最大化。また、2025年度以降の自主財源での運用を念頭に、持続可能な運用モデルを構築する。