
こんにちは!
えひめのあぷりライター・なづなです。
秋になると、愛媛の街が文化の彩りであふれる特別な3ヶ月-「県民総合文化祭」の季節がやってきました♪
昨年、この文化祭で出会った「バレエ公演」の感動が、今も心に残っています。
「文化の力ってすごいなぁ」と胸が熱くなったあの瞬間が忘れられず、今年も“また新しい世界にふれてみたい”という思いが自然と芽生えていました。
そんなときに目に留まったのが、文化の日に開催される「邦楽・邦舞公演」。
「初めてでも大丈夫かな?」という期待と不安を抱きながら過ごした、“和の世界”との出会いをお届けします。
今年のテーマは「つながろう 文化は愛顔の架け橋」
今年で38回目を迎える県民総合文化祭。
令和7年度のテーマは「つながろう 文化は愛顔の架け橋」です。
舞台芸術・生活文化・文芸など、10月から12月にかけて県内各地でさまざまな文化イベントが開催されます。
その中のひとつが「邦楽・邦舞公演」。
和の伝統芸が一堂に勢ぞろいし、三曲(箏・三味線・尺八)、日舞、能楽、琵琶、長唄、小唄、常磐津など、多彩な演目が楽しめます。
“伝統芸能”という言葉に少し身構えてしまう気持ちもありましたが、入場無料・事前予約不要という気軽さが、そっと背中を押してくれました。
また、受付で手にしたパンフレットも心強い存在に。
各ジャンルの歴史や成り立ち、舞台表現の意味が丁寧な言葉でまとめられていて、「少し知るだけで、こんなに楽しみ方が変わるんだ」と初心者の私にもすっと視点をくれる内容でした。

会場は松山市道後町・愛媛県県民文化会館サブホール。
落ち着いた雰囲気の中で、和の伝統芸が間近に楽しめる空間です。

愛媛県内15団体による多彩な和の伝統芸。
普段なかなか触れる機会の少ない日本の芸能文化を身近に感じられる特別な一日。

和装姿の“みきゃん”がお出迎え♪
思わず笑顔になる、かわいらしい案内です。

パンフレットを開くだけで、舞台の世界がぐっと身近に感じられる心強いガイド。
初めての狂言「棒縛」知恵とユーモアあふれる伝統芸能
最初の演目は、能楽・大藏流狂言「棒縛(ぼうしばり)」。
主人が留守の間に酒を飲もうとする太郎冠者と次郎冠者が、戒めとして縄で縛られてしまう-そんな場面から物語が始まります。
実際に紐で縛られた二人が知恵を絞ってお酒を飲む場面では、喉を鳴らすような声や、手首のわずかな動きで気持ちを表すなど、耳と目を澄ませるほどに物語の輪郭が浮かび上がり、思わずクスっと笑いながら舞台に夢中になってしまいました。

縄に縛られたままでもどうにかお酒を楽しもうと奮闘する太郎冠者と次郎冠者。

叱るシーンの声の迫力にびっくりしながらも、帰ってきた主人に懲りずに逃げ回る二人の姿に、思わず笑みがこぼれる一瞬。

セリフは現代語とは異なるはずなのに、不思議と意味がすっと伝わってくる、所作も言葉の間合いも丁寧で、気づけば物語の世界に引き込まれていました。
魅せられる舞のひととき!日舞「近江のお兼」と「玉兎」
舞台が切り替わるたび、まったく異なる世界が目の前に広がります。
なかでも印象的だったのは、日舞・長唄「近江のお兼(おうみのおかね)」。
舞の中で用いられる長く白い布は、おかねの強さと女らしさをより引き立て、物語の背景や人物像が自然に伝わってきます。
さらに、日舞・清元「玉兎(たまうさぎ)」では、舞台背景にはまんまるの月が浮かび、舞台全体が“月の世界”に包まれます。
月明かりのセットと兎の舞が重なる瞬間には、観る側の心までもそっと物語の中へ引き寄せられていくようでした。

文化十年(1813)、江戸森田座で初演された作品「近江のお兼」。
近江梅津の宿の遊女・おかねが、通りかかった武士の馬が突然暴れたとき、下駄のまま馬の手綱を踏んで鎮めたという話に基づいています。

揺れる白布に目を奪われる客席。
その一振り一振りが、舞の世界をより鮮やかにしていました。

文政三年(1820)に江戸中村座で初演された「玉兎」。
月で餅をつく兎の姿がふわりと現れ、影勝団子の踊りや「かちかち山」で狸を懲らしめる手柄話を思わせる場面が織り込まれていきます。

月の背景と衣装の色づかい、踊りの美しさが重なり幻想的な世界が浮かび上がる一幕。
生の音が紡ぐ、心に残る特別な時間
三曲(箏・三味線・尺八)が奏でられた瞬間、ホール全体の空気がふっと変わりました。
箏の澄んだ音色、三味線の軽やかなリズム、尺八の深く温かい響き-教科書や映像でしか知らなかった世界が、目の前で、耳のすぐ近くで広がります。

箏三絃、十七絃、尺八が織りなす「縁(えにし)」。
三種の楽器が互いに響き合いながら、“人と人との出会い”を柔らかく紡ぎ出します。

琵琶で語られる「那須與市(なすのよいち) 」の物語。
平家物語の名場面、屋島で舟上の扇を射抜く與市の勇姿が、緊張感のある語りと琵琶の響きで鮮やかに甦ります。

三曲「長月(ながつき)」では、澄んだ尺八の音色がゆったりと広がり、音に身をゆだねるように、心が自然と落ち着きます。

最終演目の三曲「ブルー・ブラック」は、箏と十七絃の二重奏曲。
箏が“ブルー”、十七絃が“ブラック”を表現し、透き通る箏の音色が青を、深い低音の十七絃が黒を描いています。
“ブルー”と“ブラック”で統一された衣装と二つの音色が重なり、気づけば舞台の世界観に引き込まれていました。
幕が降りても、心に残るのは柔らかな余韻。
初めての「邦楽・邦舞公演」でも迷うことなく、舞台の世界にすっと溶け込める特別な時間でした。
舞台の隅々まで心を配った舞いの所作や衣装、道具、響きわたる声、そして楽器の音-すべてが重なり合い、目も耳も心も自然と“和の世界”に引き込まれます。
その中で感じたのは、人を惹きつける表現の楽しさ、伝統を受け継ぐ力の大切さ、そして人と人をつなぐ温かさ。
愛媛の伝統文化にふれるたび、きっと何か心に刺さる出会いがある-そう思わせてくれる「県民総合文化祭」です。
どの分野も、ほんの少し触れるだけで、心に新しい風を届けてくれるきっかけになりますよ。
県民総合文化祭 邦楽・邦舞公演の場所・情報
訪れたイベント名/県民総合文化祭 邦楽・邦舞公演
開催日/2025年11月3日(月・祝)
会場/愛媛県県民文化会館 サブホール
住所/愛媛県松山市道後町2-5-1
料金/なし
お問い合わせ/愛媛県文化振興課 089-947-5581