【INTERVIEW】国内外活躍する若手映画監督・西山将貴さんにインタビュー
「見慣れた景色の中で、あの頃の情熱を再び」
3月下旬から4月上旬にかけて、西山将貴(にしやま・まさき)監督が手掛けるオール愛媛ロケの青春ホラー映画「インビジブルハーフ The Invisible Half」の撮影が行われました。2024年末までに完成予定で、海外の映画祭に出品後、2025年の公開を目指して制作中の今作、見どころや作品にかける思いを西山監督にインタビューしてきました。
西山将貴監督PROFILE
1999年松山市生まれ。高校在学中に監督したSF短篇映画「The Flap of the Butterfly’s Wings」が世界4カ国10の映画祭に選出。2018年、イギリスで短編映画を製作、国際映画祭でプレミア上映された。2021年、短編映画「スマホラー」でアジア最大級の短編映画祭のバーティカルシアター部門最優秀賞。2022年、22歳でMBSテレビ開局70周年ドラマ「インバージョン」で地上波ドラマ監督デビューを果たした。
半自伝的な要素があるからこそ自分が育った松山を舞台にしなきゃいけないと思った。
――この映画のストーリーはいつくらいから構想されていたのでしょうか?
この作品の脚本を書いたのが、僕が21歳のときだったので、2年前からです。今作は、「日本には自分の居場所が無いんだ」と感じているエレナというハーフの女の子が主人公なのですが、大まかに言うと、そんな子がいかにして日本で自分の居場所を見つけていくのかというものを主題とした「青春ホラー映画」になっています。
――主人公がハーフの女の子という作品は珍しいように思うのですが、なぜ今回ハーフの子を主人公にしようと思ったのでしょうか?
ハーフというと、僕と全く接点が無いように思えるのですが、実は僕の十代のときの話をそのまま投影したキャラクターがエレナなんです。僕自身はハーフではないのですが、ずっと「ここに自分の居場所はない。自分は海外に行くべきなのだ」と考えていた時代がありました。高校を卒業して映画の大学にも行かなかったので「どうすればいいのかわからない。自分がどこにいればいいのかわからない」という気持ちもありましたね。そんなことを考えながら海外で作品制作を続ける中で、やはり自分の強みというのは「日本で生まれたこと」であり、「日本文化の中で育ってきたこと」だと気が付いたんです。
自分の映像のスタイルに、いかにして日本文化を組み込むかを考え、日本で映画を作ることを決めたときの自分を主人公に投影するように脚本を書きました。
そういった、自分の半自伝的な要素が結構ある作品だからこそ、自分が育ってきた松山を舞台にしなきゃいけないと思ったんです。そういった意味では、撮影も松山で行うということも、2年前に脚本を書いたときから考えていましたね。
――オール愛媛でのロケにこだわられた理由はそこにある、ということでしょうか?
そうですね。今回の作品はホラー映画ということで、もしかするとすごく突拍子のないようなものを想像されるかもしれません。ですが、実際は「青春映画」の要素が強く出た内容です。自分が旧北条市出身で、松山で育ってきた20年間、その20年の間に自分が見てきた景色や人との関わりを初の長編映画に投影するというイメージですね。結果、多くの方のご協力で撮影の段階まで来ることができたのですが、もしこの作品の撮影を愛媛でやれなかったとしたら、そのときは全く別の作品になっていたと思います。
――今回、愛媛で長編映画を撮影されるにあたり、どのような方々の協力があったのでしょうか?
やはり、一番はえひめフィルム・コミッションさんですかね。えひめフィルム・コミッションの泉谷昇さんが、全面的に力を貸してくださいました。実は、僕が映画制作を始める以前、父親と知り合いというご縁で泉谷さんにお会いしたことがあり…そのとき僕が「映画監督になりたいです」と言っていたんです。あれから7年くらい月日が経ったのですが、そのときのことを泉谷さんが覚えてくださっていたみたいで、「本当に監督になったな! じゃあ協力するよ!」って言ってくださって。それで今回、県知事さんや市長さんにもご挨拶をさせていただき、愛媛県と松山市のご協力をいただけることになったんです。他にも「愛媛出身の若い監督が初の長編映画撮るんなら協力しますよ」と多くの方々から言っていただいて。本当に多くの方々のご協力があって、撮影まで漕ぎつけられた作品です。
とにかくこだわって映像を作り込んでいる。
――今回の撮影で大変だと感じたことはどういったことでしょうか?
既に報道等で情報が出ている中で制作を進めるという状況が、僕にとって初めてのことだったので、最初は周りからの期待や応援の声にプレッシャーを感じていました。今までは、作品がある程度できてから予告編と同時に情報を公開するという流れだったので…。ただ、いざ撮影に入り1週間ほど撮ってみると、映像がすごく良い感じに撮れていて、撮影開始から1日くらいで「あ、これはいけるんじゃないか!?」と思えるようになりました。今は「絶対いい作品になるぞ!」という完全に前向きな気持ちです。他に大変なことといえば、愛媛でのロケは東京でのロケと比べると移動距離が長くなるのですが、東京からスタッフを連れてきているので、僕以外はみんな土地勘がありません。そういうわけで、撮影の場所一つひとつがみんなにとっては初めて行く場所になるのですが、「愛媛・松山にこんなところがあるんだね!」という良い刺激をみんな受けているなというのを感じます。
――県外から来た人に「愛媛っていいな」と思ってもらえる機会にもなったんですね!
はい。今回、作品を通して自分が育ってきた場所を切り取るということで、自分の自伝的な要素は確かにたくさんあるわけですが、決してノスタルジックな映画にしたいわけではないんです。以前から、今まで誰も切り取っていないような方法で松山の町並みやいろいろなものを切り取ってみたいという想いがありました。日本の方はもちろん、外国の方が見ても楽しめる映画を作っていくという意味でも、撮影場所の見せ方にはとても気をつけて撮影を進めています。例えば、僕が作る映像の構図は印象的だと言っていただくことが多いのですが、今回はしっかり照明を作って1カットずつ撮ることを意識しています。1カット1カットがまるで絵画かのように見えるくらい、とにかくこだわって映像を作り込んでいるので、今リアルタイムで松山に住んでいる方が観ても「こういう風にこの場所が見えるんだ」という感じに思ってもらえるような映像になっていると思います。
関わる人も作品の規模も大きくなったことを改めて実感した。
――今、松山に里帰りする形で撮影されているかと思うのですが、人生の一番初めに映画を撮りはじめた頃と「変わったな~」と思う点はありますか?
それはもう、めちゃくちゃありますね!…というのも、僕は今までドラマも含めて6作品くらい作ってきたのですが、初めて撮ったのが北条の海で撮影したSF系の短編映画だったんです。16歳の頃は、「映画監督になりたい」という気持ちはあったのですが、自分が通っていた学校には映像を作る部活も無いし、映画を一緒に作ろうという友達も一人もいないというような状況でした。それでもなんとかして映画を作ってみたいと思い、一人でスマホのカメラで映画を作り始め、高校生活の3年をかけて、5分の短編映画を1本制作。その作品より後はずっとイギリスと東京で作品を撮っていたのですが、今回初長編映画で愛媛・松山に帰ってきてまた映画を撮ることになり、「やっぱり最初に戻ってくるんだなぁ」と感慨深い気持ちがあります。実は今回も松山市内の海が出てくるシーンがあり、そこに「ある種の既視感」のようなものを感じて…。あの頃と同じように海を撮っている自分は変わらないけれど、周りを見渡すとスタッフが30人くらいいて。16歳の頃の僕は、自分で三脚を立てて僕がカメラも回していたので、関わる人も作品の規模も大きくなったことをそのとき改めて実感しました。
もう一つの良い変化といえば、東京にいたときには見えてなかったことなのですが、地元・愛媛で映像を作っていると、「映画監督になりたいけどどうすればいいかわからない」という想いを抱えながら頑張っていた頃の自分を思い出してくるんです。16歳のときの自分は、大きな壁を感じつつも、世界に対して何かを残したいという情熱だけはすごくありました。あのときに持っていた情熱が一番ギラギラしていたな…と。そう考えると、最近は、うまくやろうと小手先の見せ方にばかり気持ちが向いてしまっていたように思います。今回長編映画の撮影で帰ってきて、自分の見慣れた景色で映画を作っていく中で、あの頃の情熱を思い出せたというか、再び世界に通用する面白い映画を作りたいという気持ちになれたのは、やはり愛媛に帰ってきたからだと感じています。
「インビジブルハーフ The Invisible Half」は2025年公開予定!
作品名:「インビジブルハーフ The Invisible Half」
公開予定:2025年(2023年4月撮影完了・制作中)
<あらすじ>
ハーフの女子高生である主人公は、この国でいつも誰かからの視線に怯えながら生きていた。 その見えない視線は、彼女にとって透明な怪物なのかもしれない。 そうして彼女はいつしか見えない視線を無視できなくなり始め、”透明”と戦わざるを得なくなる...”私は半分だけ”というコンプレックスを持った主人公と、ある友達の 出会いを通し、”見えない恐怖”に立ち向かっていく青春ホラー映画。