愛媛県では、アフターコロナを見据え、産業の稼ぐ力の更なる強化のため、デジタル技術やロボットを実装し、地域課題の解決にチャレンジする「デジタル実装加速化プロジェクト」を展開中。
採択事業者のプロジェクトの様子をお届けしています。
西日本を中心に、広域的に河川の氾濫、土砂災害などが相次いで発生。県内各地でも甚大な被害が発生した平成30年7月豪雨。そんないつ起こるともわからない川の氾濫を予測し、素早い避難に役立てるための実装検証が愛媛県西条市でスタートする。
河川の氾濫、土砂災害を予測する新技術を開発
(実装フィールド:西条市)
出典/数値:国交省⽔管理・国⼟保全局河川計画課令和元年7⽉30⽇プレスリリース、図:愛媛県防災危機管理課平成30年11⽉6⽇災害情報伝達セミナー資料
環境の変化にともない水の流れが変わってきている中で、どのように防災的な取り組みを展開していくか。
洪水や土砂災害のビッグデータからAI予測ができないかと言われているが、そもそも川にはAI活用に必要なビッグデータが存在しないという問題が。
なぜかというと、河川はデータの取得が難しいからである。水の流れは基本的に上流から下流へ向けて影響を与えていくため、山間部河川のデータは今後の変化の兆候を含む重要なものだ。
しかし、山間部は電線や通信状況が整っていないためデータの取得や通信が難しい。
また内水氾濫に関わる市中河川においても、まず最初に下水道が満たされるのでそれを把握できれば予測が可能になるが、ここにも電線・通信線はない。
電池も簡単には交換できない場所であるため、河川や水路、下水のビッグデータ取得には大きな壁が存在している。
この課題を解決すべく手を挙げたのが、「株式会社ハイドロヴィーナス」だ。独自開発の流水発電技術「ハイドロヴィーナス」の特性を生かした発電・計測・通信モジュールを河川の各所に設置し、河川データを集積。
地域固有の学習モデルを構築し、予測やナビゲーションを可能にすることで災害における被害の最小化を目指す。
実装されるのは西条市の河川。愛媛県及び西条市の河川管理部門などのニーズともマッチし、実装フィールドの提供を受けてプロジェクトが進められる。
発電技術を生かしたソリューション
(チャレンジャー:株式会社ハイドロヴィーナス)
約50cmのモジュール。1本の尾が渦をとらえて自家発電。浮かべるとすぐにデータの取得を開始
「株式会社ハイドロヴィーナス」は、大学発ベンチャー。
岡山大学環境生命学研究科・比江島慎二教授が開発した流水発電技術「ハイドロヴィーナス」の実用化を目指し立ち上がった企業だ。
比江島教授が開発した技術は、これまでの水力発電のデメリットを解消した画期的なもの。従来の発電システムは、風力発電に使用されるような(押されて回る)抗力型、(翼のように浮く力で回る)揚力型水車が主力。
ただこれら従来の水車は一方向に回転するため、川に置くと水草など細長い漂流物やゴミを絡め取ってしまうため、実用化にはゴミ取り装置のコストが余計にかかるという難点があった。
ハイドロヴィーナスの技術は、流体力学を応用し、渦エネルギーを活用し発電を行うもの。
振り子発電といわれ、プロペラがくるくると回るのではなく往復運動してゴミを振り払う動きをするため、ゴミが絡まるリスクも少ない。
サイズは全長約50cm、羽もコンパクトで狭く浅い所にも設置可能。
何より、このモジュール自体が発電するため電線・通信環境のない山間部や下水においてもセンサネットワークを配備することができる点は大きなメリットといえるだろう。
西条市が実証地に選ばれた理由
西条市は、典型的な山間部であるが、ただの山間部ではないと株式会社ハイドロヴィーナスの代表・上田 剛慈さんは言う。
「小さな町に高い山から海まで全部が収まった日本でも珍しい、全国の縮図のような場所だと思います。また、これも四国特有の面白い点ですが、下流の水は川底に姿を消して地下水になっています。ここでは降水から始まり上流から下流の流れの把握、そして地下水の変化に至る全ての水の流れを追うことができます」と、実装地に西条市を希望した背景を話す。
出典/加茂川縦断面曲線図:西条市ホームページ
西条市の加茂川は昔から暴れ川と呼ばれてきた川で、鉄砲水や土砂災害などさまざまなリスクがあり、予測が求められているという現状も。
平成16年台風21号では、大量の雨が一気に渓流を流れたために多くの土石流が発生し、中小河川では流木が橋脚をふさぎ氾濫するなど5名の犠牲を出した。
また、中心部の国道11号が浸水、隣県を結ぶ国道194号が土砂崩れとなり、各地で交通が遮断されたのだ。
そこで今回の実装検証では、一つの川の上流から下流までの何点かにモジュールを置き、降水情報も照らし合わせて実測・解析を行う。
「上流の降水量や水の勢いがどのくらいの遅れで下流に影響するのかをAI学習により予測できれば、『今日は川に近づいてはいけないよ』といった注意喚起ができるようになる。それが西条における本プロジェクトの最大のゴールです」と上田さん。
水の流れをモニタリングし、新たな気づきに
上流から下水道までセンシング網を設置
本プロジェクトでは、西条市が所有する地下水のデータを生かし、河川の下流から地面に潜っていく地下水の水位変動についても学習していく。
雨量による水位の変動は見られるのか、枯渇することはないのかといった情報がAI学習の中で見えてくると、水がどのように流れ、街中を通り海へ抜けていくのか、全般的な話が見えてくるかもしれない。
「阪神淡路大震災が起きたとき、六甲山の地下水の水位変動が地震と相関があったようだと言われているんです。私の希望的観測も含めて申し上げると、データの集積から学習していく先に、今まで気が付かなかったいろんなことが見えてくるんじゃないかと思っています」と上田さんも期待を込める。
加茂川・中山川で実装スタート
河川データや河川設備データ、降水データなどをPCやスマホでモニタリングできる
2023年1月より、いよいよ加茂川と中山川における実装がスタート。
それぞれ上流と下流付近の全10ヶ所にモジュールを設置し、計測が行われる。計測した河川データと河川設備データ、降水データを集積し、地域固有のAI学習モデルを作成し、今後の展開としてはPCやスマホで閲覧ができるようにと計画されている。
日本の自然環境の縮図ともいえる西条で始まる、防災を目的とした治水DX。
画期的な取り組みの動向に注目が集まる。
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