【注目】大ヒット公開中「すずめの戸締まり」の新海誠監督に独占インタビュー!

2023.1.11 えひめのあぷり編集部

えぷり編集部インタビュー

大ヒット『すずめの戸締まり』の新海誠監督にインタビュー!

みなさんこんにちは!
えひめのあぷり編集部です。

現在、大ヒット上映中の新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』。愛媛県がモデルとなった場面が登場することでも話題を集める本作は、日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる"扉"を閉めていく少女・すずめの解放と成長を描くロードムービーです。

12月12日(月)、全国舞台挨拶キャンペーン「行ってきます日本」で来松した新海誠監督に、作品への想いをインタビューさせていただきました!
愛媛にまつわるお話も伺いましたので、ぜひ最後までご覧ください!

PROFILE

新海 誠 監督

2002年、個人で制作した短編作品『ほしのこえ』で商業デビュー。
2016年公開の『君の名は。』は歴史的な大ヒットとなり、第40回日本アカデミー賞でアニメーション作品では初となる「優秀監督賞」、「最優秀脚本賞」を受賞。
2019年公開の『天気の子』は、第92回米国アカデミー賞国際長編映画賞部門の日本代表に選出。

INTERVIEW

―愛媛を映画の舞台の1つとして描いた印象は?

 愛媛のシーンを描くのはとても楽しかったですね。一つひとつの絵を描いているのはスタッフたちなのですが、彼らもきっと楽しかったと思います。愛媛にロケハンに来ていろいろ歩いて回って、この場所をすずめが経由していくと、映画前半の楽しいムードをより強くできるかなと思って愛媛を通過することにしました。
 まちを眺めていて思うのは、自然と人間が気持ちのいいバランスで調和しているエリアだなと思います。険しい自然や人々の雑踏だけではなくて、それらが優しく混じり合っているような風景があります。山の近さ、海の近さ、食べ物の美味しさみたいなものまで含めて、豊かな土地だなと思います。

―愛媛は映画前半で登場しますが、映画内での愛媛パートの位置づけや狙いはありますか?

 愛媛では、「千果(チカ)」というお遍路さんを相手にしている家族経営の民宿で働く少女が出てきます。愛媛ですずめが同い年の少女と出会うことにしたのは、同じ年だけど学校に行っているだけでなくて接客の仕事をしている少女と触れ合い、自分の知らなかった大きな世界を知っていくという話にしたかったからです。自分と同い年の少女が、社会の中で何か仕事を持って働いていることに触れる。そこが愛媛パートの一つの目的です。


―2013年に公開された『言の葉の庭』でも、主要キャラクター(雪野)の出身地が愛媛でしたよね。監督にとって愛媛とはどのような存在なのですか?

 僕はどちらかというと関東の人間で、なんとなく愛媛って憧れの場所と言いますか、漢字に「愛」が入っていて、みかんや瀬戸内海のイメージもあって…素敵な場所だろうなというイメージがあります。『言の葉の庭』の雪野は、高校生の孝雄という男の子が憧れている謎めいた年上の女性というキャラクターだったので、「素敵だな」というプロフィールにしたくて「素敵」要素の一つとして勝手なイメージで愛媛を選びました。
 映画制作後に映画を小説化することになり、エピソードをもう少し深く書かなければならないと思い、初めて愛媛にロケハンに行きました。伯方島の民宿に泊まって、雪野はこういう風景を見ながら育ったのかなと考えながら、愛媛の風景を眺め直しました。

―主人公たちの生活が、現実感満載に描かれていると感じました。背景の絵も含めて、リアルに描写する理由はありますか?

 今作では、「行ってきます」という言葉が、ある意味で映画の起点になっています。毎日言っているありふれた言葉ではありますが、行って戻ってくることができるという意味では、実は奇跡のような言葉でもあります。映画を観た方に、毎日言えていることへの実感を持ってほしかった。それって生活そのものですから、アニメーションの背景の絵にしても、そこで生活しているという実感のようなものが感じられるように丁寧に描いたつもりです。


―新海監督の作る映画では、主人公たちの「ふるさと」も強く描かれていると感じています。新海監督にとって「ふるさと」はどういう存在ですか?

 僕のふるさとは、長野県の山の上の方の過疎が進んでいる小さな町です。その場所が狭くて窮屈だなと思春期の頃は思っていて、もっと大きな場所に行きたいと思って大学進学とともに東京に行きました。ただ、ずっと東京で生活をしていて、今はずっとふるさとで仕事をしている人が羨ましいとも思います。毎日自分の車を運転して「八ヶ岳」を見ながら通勤する人生は、今の僕の生活よりずっと豊かなんじゃないかと想像できます。
 ふるさとに住み続けたいという気持ちと、ふるさとからなるべく遠く離れて、ふるさとにはなかったような仕事がしたいという、両方に引き裂かれるような気持ちが今でもあって、「ふるさと」という言葉からは複雑な感情を連想しますね。
 前々作『君の名は。』は上京する物語。今作は、すずめがふるさとに戻っていく物語。宮崎が故郷とはいえ、すずめは宮崎弁を頑なに使わずに標準語だけで育ったというバックグラウンドもあります。ふるさとに対して何か真っすぐではない思いを抱えているキャラクターを描いてしまうのは自分自身と関係しているのかもしれないですね。

―ふるさとへ目を向けると、日本の地方で抱えている課題も浮かび上がってくると思います。『君の名は。』以降の3作品で、その課題についてどのように捉えてこられましたか?

 まずは大前提として、ワクワクするようなファンタジー要素も含まれているエンターテインメントのアニメーションを作りたいという気持ちが大きかったので、日本の地方それぞれが抱えている課題を、アニメーションの中できちんと向き合えているかは、自分では心もとないところではあります。
 ただ、今回の作品では地震や、少子高齢化の結果、人がいなくなってしまった廃墟が出てきます。自分たちが暮らしている日本の同時代の空気や、今しかない風景のようなものは映画の中に刻み込みたいと思いました。10、20、100年後にこの映画を観た方が「あの頃の日本はこういう場所だった」と思ってもらえるような映画になっていればいいなと思います。

―軽いテーマを描いているわけではないのに、観終わったとき「楽しかった」「猫が可愛かった」など、マイナスな感情だけでは終わりませんでした。エンタメ性という視点で、意識されたことはありますか?

 何よりも、楽しい映画じゃないといけないと思いました。今回の映画は、災害が設定の一番底にあります。そのことで、いろいろな感想を持つ方がいらっしゃると思うのですが、それだけに「楽しい映画だった」という感想をまず持ってもらえる作品でないと、作る意味はないと思いました。
 災害のことを忘却されないように正面から語るのであれば、必ずしもアニメーション映画でなくてもいいわけです。語り部、報道、ドキュメンタリーなど、もっとふさわしいアプローチがあると思います。だけど、エンタメだからこそ、関わりのない場所や興味のなかった人まで届くこと、思い出してもらえることもあると思うんです。
 現実に触れている分だけきちんと楽しいものにして、すずめや草太に感情移入してもらい、「楽しい映画だった」と思ってもらって、そのうえで、人によってはさらに持ち帰ってもらえるような何か――プラスアルファが発生すれば、それはエンタメでしかできない災害への向き合い方だと思います。

―草太が椅子に変えられてしまうことにはどのような意味がありますか?

 廃墟をめぐるような重いテーマを持った物語なので、すずめの隣にいるキャラクターに何か可愛らしいものが欲しいなと思って。はじめは、少女と少女の友達同士のバディものでもいいなとか、化け物みたいな廃墟に立っていたらかっこいい巨大でドロドロした、おどろおどろしいものがいいかなとか、いろいろ考えました。
 けれど、映画のバランスを考えると、笑ってしまうようなコミカルな要素が常にいてくれた方が、映画の重さを支えられるかなと思って、すずめの思い出に結び付けて母が作った椅子にしました。僕自身も子どもの頃、父親が専用の椅子を作ってくれたことがあって、なんとなくその思い出が残っていたのもあるかもしれないですね。無機物を動かすのは、アニメスタッフの技術的なチャレンジとして、やっていて楽しい部分でもありました。

―1つひとつの描写が美しいことが印象的ですが、視覚的な意味でこだわった部分はありますか?

 スタッフの分だけこだわりがあったと思いますが、僕自身が一番こだわったのは「色彩」です。通常のアニメーション映画の作られ方と全く違う部分としては、僕が全カット全パーツの色を決めているんですね。たとえば、アニメーションの現場では「昼間のシーンの目の色はこれで」と一度決めたら、全部の昼のシーンで同じ色を塗ることが多いんです。だけどこの映画では、1カットずつ全部色を決め直しています。カメラがすずめに近いと、目の面積が大きくなるから、もう少し目の色を深くする、といったように、1カットずつ細かい調整をしていて、それをすべて僕自身がやっています。
 映画を観て、華やかで鮮やかな映像を観たなと感じていただけたのであれば、実は全カット全部色が違うというのが理由の一つかなと思います。


―映画を通して伝えたいメッセージは?

 伝えたい気持ちはいくつもありますが、観客がどう受け取ってくれるかはいつもコントロールしきれません。その人次第で、その気持ちはそれぞれ形が違います。少しでも観客の形と噛み合う要素の多い映画にしたいと思いました。誰が観ても少しだけでも持ち帰ってもらえる、お土産がある映画になればいいなと思い、いろいろな要素を詰め込んだつもりです。


―これから映画を観る愛媛のみなさんに向けて一言お願いします!

 映画の中で愛媛を描かせていただきました。映画前半の中で一番楽しい旅の部分が愛媛です。コロナ禍でこの映画を作っていて、このような旅ができる世界がまた来ればいいなという気持ちもあって。いろんな人と知り合って、別れ際に思いきりハグし合うような、あんなふうな生活が戻ってきたらいいなと思いながら愛媛を描きました。愛媛の方が見たら知っている風景や聞いたことのあるイントネーションがたくさん出てきて、特別な楽しみ方ができるはずですので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。

『すずめの戸締まり』は大ヒット公開中!

©️ 2022「すずめの戸締まり」製作委員会

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