愛媛県では、下記3つの観点から、デジタル・ソリューションと関連技術(AI,IoT,ロボティクスetc...)を愛媛県内事業者・自治体等に実装し、地域課題の解決にチャレンジする「デジタル実装加速化プロジェクト」を2022年度スタートしました。
2023年度採択事業者のプロジェクトの成果報告をご紹介します。
愛媛県内の障がい者のうち、約4割強が肢体不自由者と言われており、特別支援学校卒業生のうち、肢体不自由者の就職率は低く、社会の支援が求められている。そんな肢体不自由者を取り巻く環境の救世主となるべく、分身ロボット「OriHime」を通じて、就労を希望する人が働くことができる地域社会の実現を目指したプロジェクトが始動する。
自立支援・協働ロボットの国内市場は5年で約20倍と予測
次世代自立支機器のうち、特にコミュニケーションロボットの市場が急成長
障がい者サポートに繋がる可能性があるとして、急成長が予測されている分野が自立支援・協働ロボット市場である。障がい者・高齢者を支える次世代自立支援機器の国内市場規模は、5年で約20倍になると予測されており、なかでも特に需要が大きいのがコミュニケーションロボットの市場規模だ。コミュニケーションロボットとは、状況に応じて動作や言葉、感情を作動させ、人の生活の中でサービスを提供するロボットのことである。
また、2020年は「アバターロボット元年」とも言われている。アバターロボットとは、コミュニケーションロボットの一種で、操作する人間がその場所に行かなくとも、ロボットを遠隔操作することで、ロボットの身体を通して様々な体験ができるのが特徴。障がい者支援をはじめ、リモートワークや高齢者家族とのコミュニケーション、家事代行など様々な領域でアバターロボットの活用が期待されているのだ。
「OriHime」を使用した分身ロボットカフェは、2021年グッドデザイン賞大賞受賞
このアバターロボット業界のパイオニアと言われているのが、「株式会社オリィ研究所」共同創設者 代表取締役CVOの吉藤オリィ氏だ。自身の学生時代の不登校の体験をもとに、分身ロボット「OriHime」を開発。自身の体験から「ベッドの上にいながら、会いたい人と会い、社会に参加できる未来の実現」をするべく「株式会社オリィ研究所」を設立。2010年の「OriHime」誕生以来、改良を重ねると共に、肉体労働が可能な分身ロボット「OriHime-D」など多様なプロダクトやソリューションを市場投入してきた。
そして2021年6月には「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」の常設実験店を東京日本橋にグランドオープン。ALSなどの重度障がい者、様々な事情で外出が困難な人たちが分身ロボットを遠隔操作して、接客をしながら働く実験カフェを運営している。
今治のカフェで「OriHime」を通じた接客サービスの就労体験を
今回「OriHime」を通じて接客を行う、今治にあるカフェ「里山サロン」
今回のトライアングルエヒメでは、分身ロボット「OriHime」を県内在住の肢体不自由者が遠隔操作して就労体験する事業を立ち上げる。事業実施にあたり、働き先は県内のカフェにおける接客サービスに特化させる。
そこで実装先として選んだのが、愛媛県今治市にあるFC今治のホームスタジアム『今治里山スタジアム』内にあるカフェ「里山サロン」だ。「里山サロン」のコンセプトは「来るだけで誰か、何かのためになる優しい場所」。カフェには福祉施設が併設されていたり、提供される食材は地元で獲れたイノシシ肉を使用したジビエを使うなどSDGs等にも配慮されており、今回の事業に相応しい実地研修カフェとして協力いただくことになった。
「里山サロン」の内観。テーブル上に「OriHime」を設置し接客を行う
「OriHime」の特徴は、持ち運べるサイズ感、ジェスチャーによる人らしさの表現、顔が見えないことによる先入観の排除、障がいがあっても使いやすい点にある。それらロボットを通じたコミュニケーションを得意とする特徴を活かし、「里山サロン」ではテーブル上に「OriHime」を設置し、お客様に向けて料理の説明などを行う接客サービスの実施を想定している。
県内の特別支援学校等と連携し「OriHime」のパイロットを育成
研修に参加する宇和特別支援学校の生徒
今回のプロジェクト実施にあたり、県内の特別支援学校(肢体不自由)の生徒や、就労を希望する外出困難者に対して、「OriHime」を通じて働く場を提供し、就労意欲の向上、就労支援に繋げ、育成システムをはじめとした県内のロールモデルを確立することを目指す。
そこで、県内特別支援学校の「しげのぶ特別支援学校」、「宇和特別支援学校」、及び事業者「株式会社マルク」などと連携し、計6名の肢体不自由者に「OriHime」のパイロット(操作者)になってもらい、パソコンやタブレットを通して「里山サロン」で遠隔就労を実施する。
それに先立ち、まずは「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」(東京都日本橋)で働く先輩パイロットが指導役となり、2023年12月〜2024年1月にかけて計5回、就労体験プログラムを実施する。体験プログラム終了後の2024年1月25日(木)、2月1日(木)、2月8日(木)の3日間、「里山サロン」にて「OriHime」を通した実地研修が決定。
【今治・里山サロンOriHimeカフェ】
実施日:1月25日(木)、2月1日(木)、2月8日(木)各日13:30~16:30
定員:各日24名
※要予約
就労を希望する全ての人が働ける地域社会の実現へ
今回のプロジェクトメンバー「えひめロボティクス障がい者サポートコンソーシアム」は下記の4者からなる。
●プロジェクトリーダー「株式会社ノトス」(所在地:愛媛)
●パートナー「株式会社オリィ研究所」(所在地:東京)
●パートナー「愛媛大学苅田研究所」(所在地:愛媛)
●パートナー「愛媛県障がい者ICTサポートセンター」(所在地:愛媛)
今後もTRY ANGLE EHIME編集部では、2024年1月〜2月にかけて「里山サロン」で行われる育成パイロットの実地研修にも密着予定だ。研修の様子や実装結果、今後へ向けての課題と展望については次回の記事にて報告する。研修参加メンバーのなかには将来、接客の仕事を夢見たり、特別支援学校の接客技能検定で1級を取得している学生も存在する。「里山サロン」での実地研修が成功すれば、その学生たちの将来の道が拓ける。また、コンソーシアムでは飲食店での遠隔就労はもちろん、将来的には金融機関の窓口業務や高齢者施設でのコミュニケーション業務への展開も視野に入れている。法的にも定められている障がい者雇用。こうした先進的な取り組みが企業のブランドイメージの向上やCSRにもつながると考えられる。
アバターロボットを通じて、就労を希望する全ての人が働くことができる地域社会の実現に期待したい。
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